陰陽座「鬼子母神」(2011)

  • 2012/12/24(月) 00:00:00

鬼子母神
【No.358】
★★★★★(2011)
年間ベスト2011年第1位

リーダー瞬火(B、Vo)が描く明確なヴィジョンのもと1999年のデビュー以来、安定した活動を続ける陰陽座の記念すべき10枚目の作品にしてバンド初のコンセプトアルバム。これまでにも「黒塚の鬼婆伝説」(3rd「煌神羅刹」収録)、「源 義経」(6th「臥龍點睛」収録)、「最強の妖怪 九尾の狐」(9th「金剛九尾」収録)などアルバム内に個別のテーマを持つ2~3部構成の組曲を発表してきたバンドが初めてとなるトータルコンセプト作の題材に選んだのは「鬼子母神伝説」です。ここで「鬼子母神伝説」について簡単に触れておくと「1,000人の我が子のために人間の子供をさらってきては喰わせていた女神『鬼子母神』を見るに見かねたお釈迦様に末の子を隠され、泣いて『返してくれ』と頼む鬼子母神に対して『1,000人のうちのひとりでも盗られたらこんなに悲しいのだから、お前が盗ってきた子供の親がどういう気持ちなのか分かりなさい』とお釈迦様が諭す」という内容だそうです。本作は「純粋な音楽作品として楽しめて、かつ脚本と絡めて聴けば味わいが更に増すものにしたい」という瞬火の意図からCDとは別に彼が「鬼子母神伝説」に着想を得て書き下ろしたオリジナル脚本「絶界の鬼子母神」が発売されていて、僕はCDと脚本の両方を購入しました。本作で描かれる物語の全体像はバンド結成当初から瞬火の頭の中にあったようで、構想12年のストーリーが瞬火曰く「思った通りのものが思った以上のクオリティで仕上がった」のが本作です。

まず脚本を読まずに音楽作品「鬼子母神」を聴いた時の印象としては、序曲に続く事実上のオープニングトラック②「徨(さまよい)」や陰陽座流シンフォニック・メタル⑧「鬼子母人(きしぼじん)」からエンディングまでの展開など流石のクオリティを備えている一方でコンセプト作品という性質上、キャッチーなメロディや即効性は低いように感じました。ところが脚本を読み、瞬火が作り手としての拘りや思い入れを熱く語ったこちらのインタビューを踏まえてアルバムを聴くとガラリと印象が変わりましたね。何とも言えない狂気を孕んだ③「産衣(うぶぎ)」、演歌と民謡をミックスした陰陽座お得意のお祭りソングでありつつ、その裏に潜む恐ろしさも感じさせる⑤「鬼拵ノ唄(おにこさえのうた)」、曲名にある恨みだけでなく怒りや悲しみといった感情が入り乱れる⑨「怨讐の果て(うらみのはて)」などで顕著な登場人物の心情を楽曲に反映させる表現力は、これまで9枚のアルバムを作り上げてきた現在の陰陽座だからこそ為せる業だと思います。また今回は物語の性質がシリアスで悲しみや怒りを含んだものであるということからバンド初の試みとなるダウンチューニングを採用しているのですが、これが実に効果的で作品全体に今まで以上の重厚感が溢れているのも見逃せません。

ストーリーの描写については、過去の組曲でそうだったようにセリフを交えながら展開させていくのかと思いきや、セリフと呼べそうなのはイントロ①「啾啾(しゅうしゅう)」の「はな」とラストチューン⑫「鬼哭(きこく)」の「はな、行こう」という2つのみです。しかしセリフを最小限に抑えたからこそ逆に活かされているし、このセリフの主である登場人物「静(しず)」が抱く様々な感情をここに凝縮した黒猫(Vo)の熱演にただただ脱帽です。彼女は歌唱力だけでなく登場人物の心の機微を描写するという面でも過去最高のボーカルパフォーマンスを披露してくれているし、「鵺(ぬえ)」(4th「鳳翼麟瞳」収録)でボーカリストとして開眼した瞬火も本作随一のドラマティックチューン⑩「径(みち)」で更なる成長振りを見せつけてくれています。これまで陰陽座が生み出してきた作品群の中には名盤もあったし、近作も十分に楽しめる内容ではありましたが「まだ余力を残しているのでは?」と感じることもありました。それに対して本作は聴き始めのインパクトでは一歩譲るものの、繰り返し聴く度にどんどん味わいが増してきて今ではすっかり魅了された僕がいます。それにしてもバンド結成当初から今回のようなコンセプトアルバムを作ることを思い描き、12年後にそれを実現させてしまう瞬火という人の才能は凄まじいですね。音楽に対するその真摯な姿勢が本当にカッコいいです。「このアルバムを生み出すために陰陽座は結成された」という瞬火の言葉にも十分な説得力が感じられるバンドの集大成的な1枚だと思います。

【音源紹介】
・「径(みち)」

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B!13さん

こんばんは。僕も本作を聴き始めた時点ではしっくりこない部分がありましたが、脚本を繰り返し読んでいるうちにどんどん絶界へと引き込まれていきました。ライブ参戦は難しいですが本作を再現したライブDVDはいつかチェックしたいと思ってます。
僕にとっても本作が最高傑作ですね。

  • 投稿者: よしよ
  • 2012/12/26(水) 23:57:39
  • [編集]

メタがえるさん

こんばんは。記事を参考にしていただいているようで嬉しいです。陰陽座は基本的に全編日本語詞ですが、日常生活で使わない古語が多いので、時々別の言語による歌詞と錯覚してしまうこともありますよ(笑)。
このバンドは色物扱いされることも少なくないみたいですが、リーダー瞬火を中心とした良いバンドだと思います。本作はコンセプト作という性質が影響してか、即効性は低い気もしますがベスト盤などには初めて聴いた時からインパクト抜群な曲もありますので、よろしければトライしてみてください

  • 投稿者: よしよ
  • 2012/12/26(水) 23:55:54
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僕は今作を最初に聴いたときはピンと来なくて僕の昨年のアルバムベスト10には入りませんでしたが、脚本を読んでしっかり聴きこんで、ライブを見に行って、ライブDVDを買って…とどんどんハマっていきました。

僕は前任のドラマーが音が軽いのがとても不満だったので今作で叩いているサポメンのドラムがヘヴィで心地いいです。

トータルで見て最高傑作だと感じます。

  • 投稿者: B!13
  • 2012/12/26(水) 22:24:54
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おおおっ!

こんにちは。 メタがえるです。

初めて陰陽座を聴きました。
名前は知っていましたが、
「日本語とメタルと合うのかな?」という
しょうもない偏見があって聴かずじまいでした。

しかし! 声と音楽の質の高さにびっくり!
予定外にちょっと感動してしまった自分がいます^^;

食わず嫌いはいけませんね。

いい音楽をありがとうございます!

  • 投稿者: メタがえる
  • 2012/12/25(火) 04:03:10
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